research

確固とした研究方針はありません.が,常に方針については思いを巡らしています.方針に近い文章を時々書いています.(将来的にまたアップデートされるでしょう)

研究の方針(2011.5)

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現在当研究室の研究は,触覚に限らなくなってきました.ここで研究室の研究に対する考えを改めてまとめます.

バーチャルリアリティ(VR)やヒューマンインタフェース(HI)といったヒトを対象とした学問分野の特徴の一つに,領域をまたぐ多様性があります.この多様性には,感覚の種類や応用分野といった「並列的」な側面と,どのようなレベルで人類に貢献するかという「重層的」な側面があると思われます.
特に後者の重層的な多様性は次の3つに分けられると思われます.第一に知覚とは何かという根本的な理解のサイエンス,第二にそのような理解に基づいた最適なデバイスに関するエンジニアリング,第三に可能となったヒトと環境の相互作用がヒトの幸福に結びつくためのデザインです.

本研究室は,ヒトを対象とした学問分野が持つこの重層的な多様性を,研究室内でも維持することを意識したいと考えています.サイエンス・エンジニアリング・デザインという3つの階層は,各個人の研究においては1つに限定されるかもしれないとしても,これらの階層構造を日頃から身近に感じることが大切と考えるからです.

例えば論文の「はじめに」の章を思い浮かべると,サイエンスの研究であれば真理の探求という点から,デザインの研究であれば社会的意義という点から説き起こすことになると思いますが,どちらのスタンスも受け入れ,望ましくは自由に行き来する雰囲気を大切にしたいということです.

研究室の属する階層を限定しないということは,具体的な研究課題を見つける手順,言い換えれば研究室の「勝ちパターン」が定まらないということでもあります.このためどのように良い研究課題をみつけるか,ということは常に大きな課題です.これまでの研究でたどった道筋を思い返すと,次のように分けられるように思います.

  • まず個人的な夢ないし欲求を具現化したいというゴールから始まる研究群があります.「鉛筆を削る感覚を再現する研究」(図左上)や「ウエアラブル風覚提示の研究」(図右上)などはこうした例です.インタフェース研究の最良の調査対象は自分自身なので,坐禅・内観から始めることもひとつの方法かと考えています.
  • 次に発見から始まる研究群があります.サイエンスの王道のようですが,実際には誰の前にもリンゴが落ちてくる訳ではないので,発見から研究をスタートすることは意外に少ないかと思います.ただ本研究室が主に取り組んでいる触覚という研究対象は,なにげない体験でも説明出来ていないことが多いので,そうした日常の不思議が意外な広がりを見せることがあります.例えば「ヒトの水面知覚に関する研究」(図左下)は研究の過程で,同様の現象が1860年代に発見され,しかも解決されていなかったことが判明しました.
  • 最後に,既存の知識の組み合わせから生まれる研究群があります.他の分野で用いられていたツールをインタフェースの面から見たときに新たな応用が生まれるというものです.例えば「笑いを増幅する研究」(図右下)は笑い動作を検出する技術を知ったことから始まったものです.

以上のように本研究室は,研究上の異なるレベルの価値感,複数の方法論の混在した場として機能させたいと考えています.上に述べた価値や方法ですら,言葉で意識した途端にある種の自由を奪うでしょう.望ましくは科学者とも技術者ともデザイナーとも自己規定することなく,呼吸をするように研究をする形を目指したいと思っています.

作品か研究か(2007)

例えば我々は髪の毛をなでられれば深く安心し,手を握られれば動揺するか落ち着くかします.こうした例は,人間同士のコミュニケーションにおいて触覚の感性的側面が他に代えがたい重要な役割を果たしていることを示しています.

これまでの触覚提示は,たとえばロボットの遠隔操作や遠隔手術等のクリティカルミッション,福祉用途では感覚代行など,「正確なリアリティの再現」,あるいは「より多くの情報伝達」を目標に据えてきました.こうした応用の重要性はこれからも変わることはありませんが,現在,そして今後のネットワーク社会の発展を考えると,一般ユーザにとっても魅力的な触覚コンテンツを考える必要があります.つまり視覚や聴覚がすでに「作品」を生み出しているように,触覚も単独で作品となるための準備が必要です.

例えば聴覚においては和音やメロディの様な感性的基本単位があって初めて音楽制作が可能となりました.とすれば,触覚コンテンツを製作するためにも,触覚において快・不快とされる基本要素を見つけだす必要があると考えられます.それが聴覚における和音や不協和音のように周波数領域で語れるものなのか,メロディのように時間-周波数で語れるものなのか,画像のようにある種の時空間パターンとなるのかはまだ分かりません.しかし触覚研究が現在は「純音」を出すレベルでしかないことは強く認識すべきです.

触覚における感性的基本単位の正体がわからない以上,具体的なものから濾過,抽出していく分析的方法と,純音を組み合わせていく構成的方法の両アプローチを試みる必要があります.

前者の方法では,日常的な感性的触覚体験を人工的に再現することから始めます.触覚における爽快な,あるいは気持ちの悪い感触は数多くありますが,それらを統制された環境下で再現すると共に,要素をそぎ落としていき,重要な成分を同定する作業になります.最終段階として後者の構成的方法を用いて再現出来れば,触覚における感性的基本要素が工学的に完全に分かったことになります.この段階では,現実世界ではありえない感性的触覚コンテンツ,すなわち触覚の音楽が実現できると考えられます.

当研究室の研究が,作品なのか基礎研究なのかわからない,と言われるのにはこのような背景があります.

Last-modified: 2014-11-13 (木) 19:22:34

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