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ヒューマン・ワールド・インタフェース

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本研究室では主にヒューマンインタフェースの研究を行っています。

 インタフェースとは「境界」という意味ですが、ヒューマンインタフェースという言葉の広まる前はマン-マシン-インタフェースという用語が使われていました。直訳すると「人と機械の境界」となり、人と機械の親和性を高める技術の総称とされます。例えばキーボードやマウスのようなものです。
 この用語が替わった背景は他に譲りますが、ヒューマンインタフェースという言葉は研究の方向性を変えるだけの力を持っていたと思われます。機械やコンピュータの入出力装置にとどまらず、「人の境界」つまり「自分と世界の関係」を研究するのだ、ということを言葉自体が強く示唆していたからです。むしろ,ヒューマン-ワールド-インタフェースというべきかもしれません.

 私たちは世界とどう関わっているでしょうか。まず我々は世界から、ある決まった入力チャネルを介して情報を受け取ります。このチャネルは「感覚」と呼ばれ、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五つに大別されます。一方我々から世界への出力も限られています。我々の外見や姿勢、音声や拍手、力、体温、さらに呼吸や体臭といったものです。ヒューマンインタフェースとは、こうした我々と世界との関わり方を変革するための、あらゆる技術的可能性であると言えます。

触覚インタフェースの可能性

 ヒューマンインタフェースにとって、人間の皮膚はとても示唆的な部位です。皮膚は我々と世界とを峻別する物理的境界であるだけでなく、世界からの入力(触覚)と世界への出力(力)が同時に同じ場所で実現されている唯一の部位でもあります。ですから原理的に、世界に影響を与えずに世界から情報を得ることが出来ません。我々と世界との関わり方を考える上でこれほど適した素材は無いでしょう。またどんな原始的な動物も触覚を持ちますから、触覚は生命の意義や我々の意識といった魅力的な謎に迫るうえで適した題材とも思われます。

 さて、触覚インタフェースは技術的には触覚センサ(世界を触って情報を得る)と触覚ディスプレイ(人間に触覚を提示する)に分けられます。いずれも現状では人間の皮膚のレベルには達しておらず、近年世界的に盛んに研究がなされるようになってきました。触覚センサと触覚ディスプレイが人間のレベルに達すれば、例えば遠く離れた場所のロボットが触った物を、我々は居ながらにして感じることが出来るようになります。このとき我々は初めて、皮膚という、どうすることも出来ない物理的境界を越えたことになるのでしょう。

 当研究室では現在主に触覚ディスプレイを研究しています。特に従来多かった機械的な皮膚変形による触覚ディスプレイとは異なる、電気刺激を用いた触覚ディスプレイによる、(1)リアルな触感の実現、(2)電気刺激の利点を活かした応用、の2つを重点的な目標としています。
 電気触覚ディスプレイとは皮膚表面に配置した電極マトリクスから体内に微弱電流パルスを流し、感覚神経を活動させることによって触覚を生じさせるものです。平たく言えば「感電」です。感電というとイメージが悪いですが、実際これまでに提案された多くの電気触覚ディスプレイは長期的な使用に耐えない感覚を伴っていました。しかし原理的には、皮膚が接触したときに触覚受容器が生成するのと同じ神経パルスを生じさせれば同じ触感は実現できるはずです。特に人間の皮膚下には数種類の役割の異なる触覚受容器があるので、それらの受容器を種類別に刺激することで、視覚における色の合成と同じように任意の触覚を生成することを目標としています。 また電気触覚ディスプレイは通常の機械的な触覚ディスプレイと較べきわめて小型軽量であり、騒音を発することが無く消費電力も少ないという多くの利点があります。こうした利点を活かした応用を提案したいと考えています。

サイエンスとエンジニアリングの融合

 人間の触覚はいまだ未知の部分が多く残されている分野です。例えば「ざらざらする」と言ったとき実際に皮膚で何が生じているのか、まだ正確には分かっていません。現象が理解されていないので、当然ディスプレイ設計の方針は確立していません。逆に言えば、単なる振動ディスプレイ以上のものが欲しければ、ディスプレイ作りというエンジニアリングにとどまらず、サイエンスに踏み込む勇気を持たなければならない分野であるといえます。当研究室はそのような場でありたいと考えています。

 ところで日本は世界的に見て非常に多く(恐らく1/3程度)の触覚研究者が集まっています。ロボット技術の伝統により触覚研究におけるエンジニアリング部分が得意であること、またビジネスに直接結びつかないサイエンスの部分に尊敬でもって報いる気風が失われていないことが主な原因と考えられます。触覚に関する研究開発が、理論から応用まで、すべて国内に居ながらにして最高のものに触れることの出来る分野であるという側面も、最後に強調しておきたいと思います。  

Last-modified: 2008-09-05 (金) 17:58:10