読んだ本を時々研究室内メールで紹介しています.ある程度たまってきたのでwebにも置くことにしました.
元々研究室内メールなので口調が雑です.
(2014/9)裏山の奇人 -野にたゆたう博物学-†
昆虫博士の本です.本の内容自体も面白いですし,研究者キャリアに関する話(学振とかポスドクとか)が盛りだくさんですので,博士課程の人や博士研究者を目指す可能性のあ
る人にもお勧めです.
(2014/9)福祉工学への招待 - ヒトの潜在能力を生かすモノづくり†
(日本バーチャルリアリティ学会誌での書評)
バーチャルリアリティ学会前会長の伊福部達先生の新著である.著者の業績は聴覚障害者のための聴触覚変換,視覚障害者のための視触覚変換,気配の研究,など福祉工学全域にわたる.
本書の冒頭で著者は次のように述べている.「私は(中略)最初から福祉工学を標榜していたのではなく,周りの人達に私の専門は福祉工学であると命名されたという方が正しいといえます」.これは著者こその言であり,本書を特徴づけているといえる.すなわち本書は自伝的物語を面白く読んでいるといつの間にか福祉工学に入門してしまっていたという,福祉工学の創始者だからこそできる仕掛けになっている.紹介されている研究の一つ一つが,著者自身や研究室メンバ,その周辺の物語を内包しており,一研究室の自叙伝としても愉快である.舞台が北大で動物が度々登場することもあり,「動物のお医者さん」を読んでいるような気になってくる.
本書の一貫したテーマは福祉工学の研究アプローチである.音の高さの急激な変化に対する知覚の研究は有名な緊急地震速報チャイムの選定につながり,麻雀の盲牌の研究は触覚による感覚代行につながり,九官鳥やインコなどの研究は人工咽頭の改良につながるというように,「福祉工学の基礎を身近なサイエンスに求め,その結果を福祉機器の開発に生かすという研究アプローチ」を繰り返し鮮やかに描いている.個々の謎解きで感じられるワクワク感は,ラマチャンドランの「脳のなかの幽霊」にも通じる推理小説の趣がある.
著者の研究アプローチの特徴がサイエンス(知覚に潜む潜在能力の発見)とエンジニアリング(障害という問題解決)のループの徹底にあることは上述のように力説されているが,読み進むうちにそれだけではないことが分かってくる.すなわち強烈な多方面への好奇心という原動力があって初めて成立するということである.ろう管(円筒状のろうに音の振動を刻んだ昔の記録媒体)の音の再生など,福祉工学とは一見関係のなさそうなエピソードも本書に配置されれば違和感がないのは,著者の強い好奇心に読者が慣らされていくためと思われる.
あとがきで著者は,文系の読者も想定して福祉工学の入り口を広げる本としたと述べている.あえてそれに付け加えるなら,本書は幅広い年齢層,キャリア段階に読者を得る本であると言える.今からVRないし福祉工学の研究室の門戸を叩こうという学生はもとより,留学前の学生であれば著者がスタンフォードに留学した際の話に勇気づけられ,また研究者であれば研究内容はもとより研究室運営や,本書後半で紹介されている現在進行形の高齢者支援プロジェクトに特に興味を惹かれるだろう.
最後に極めて個人的な,誤読を含むおそれのある感想を述べておきたい.評者は,錯覚現象の発見や解明を端緒とした研究を幾つか行っている.それらは応用目的からはスタートせず,錯覚の発見から研究をスタートし,「いつの間にか」応用に結びつく(かもしれない)というものである.この「いつの間にか」が曲者であり,応用に結びつく可能性の高い「筋の良い」錯覚は,応用先をすぐに思いつくものではなく,結局「十分面白い」錯覚であるとしか言えないのではと感じている.しかも十分面白い錯覚であっても,何年たってもまだ応用が見つからないものも多い.
評者は本書を読んだ時,この「十分面白い現象」と「いつの間にか役に立つ」の関係の難しさを,僭越ながら著者も共有しているように感じられた.つまり九官鳥や盲牌の研究は,やはり「十分面白いから」始めたように思われ,それが鑑定眼の確かさから応用に結実した,ように感じられた.この意味で特に本書は評者にとって勇気づけられるものであった.
(2012/8)欲望を生み出す社会†
原題satisfaction guaranteed。1890~1910年頃の米国を舞台とした大量消費社会の成立の様子を、当時の豊富な広告を参照しながら生き生きと描いています。
製造と流通販売、消費者の関係の変化について我々は、amazonやwalmart、grupon等によって、なんとなく最近の話題と感じていますし、それでわかった気にもなっています。しかし実はそうした関係の変化がすでに1890年代(日清戦争のころ!)にすでに生まれていたという話。
例えば次のような一節には鳥肌が立ちます:「1906年シアーズ(現在の有名百貨店、当時最大の通販会社)は...1日900袋の注文の郵便手紙を処理。受注から48時間以内に発送するスケジューリングシステムを確立していた。一時間に3万通弱が機械で開封、重力シュートやベルトコンベアを使用、...数百万の顧客情報をカード管理していた。こうした顧客情報は百万件単位で取引されていた」。
こうした膨大な事例の中には当然、多くの立役者間の争いが含まれます。すでに当時から、メーカーが流通を直接握ろうとして商品のブランドを作り、既存の流通が反発する、というように。ちなみに「ブランド」という概念自体この頃に生まれたもので、ブランドが無い時代には人々は純粋な商品の質と金額の均衡関係で(つまり合理的に)ものを買っていたらしいのですが、ブランドの発明によって「忠誠心のある消費者」が誕生したのもこの頃とのこと。
我々は地域商店街や小規模書店の立ち行かなくなる状況を現代的な問題として捉えがちです。特にいまは過去にはないインターネットという要素があって次々と新しいサービスが立ち上がっているために、余計にそう思いがちです。でも実はインターネットは加速要素の一つに過ぎず、より普遍的、歴史的、連続的な問題として捉えるべきなのでしょう。そうした俯瞰視点を得た気にさせてくれる本です。
原著は古典的名著として扱われているそうです。英語でとても読める気がしないので、邦訳が出てほんとうに有難いことです。
(ところで本書は研究書に近い啓蒙書という位置づけですが、この分野は文章による例示の積み重ねで論を作っていくのですね。その事自体新鮮ではじめ戸惑いました)
(2012/1)「書くのが苦手」をみきわめる†
大学教員にとって、学生の文章力というのは典型的な愚痴の対象ではあります。またそうした話は「最近の若者は『』」で終わってしまいがちでもあります。『』に入るのは例えば、「本を読まない」「意見を言わない」など。しょっちゅう言ってしまっていますね。
文章力を鍛えるための最大の方法は一般的には「添削」とされています。誤字脱字や形式に関する修正から内容、構成に関する指摘まで、色々なレベルで行う結果、真っ赤にして返すということになります。梶本自身も(恐らくほとんどの教員が)そうして「鍛えられた」記憶があるので、自分がされたようにするわけです。しかしそうした努力、特に「客観的になれ」「論理的になれ」という指摘とともに何度真っ赤にしているにも関わらず、治らないだけならともかく「書くのが苦手」になってしまう人も必ずいるわけです(学ぶ意志はあるにも関わらず!)。
指導側としては、添削の際に「修正」してしまうと能動的に学ばないだろう、という考えから、はじめは「指摘」だけする、というような工夫もするわけですが(これは実際には数倍の労力になる)、全体としてそのような丁寧な指導を受けた人が書くのが得意になったかというと怪しいです。
…と前置きが長くなりましたが、本書はこうした教員の「どうしたらいいんだ」という普遍的な悩みを1つの研究対象としたものです。本書は文章力を上げるテクニックに関する本ではありません。「書くのが苦手とはどのような現象なのか」という疑問を、大規模なアンケート調査で明らかにすると共に、その対策を、筆者自身の講義(という実験場)で色々と試すことで検証しています。
この本の面白さは恐らく2点あります。一つは、この本自体が、「良くできた博士論文」の体をなしているため、これ自体がそのままアカデミックライティングの参考になる、ということです。例えば日頃から言っている「トピックセンテンスを中心としたパラグラフライティング」の実例であると言えます。
もう一つは、具体的なテクニックが書かれていないとしても、(筆者自身が文中で述べているように)「書くのが苦手」に関する分析を読むことで、苦手な人は自己分析をすることができ、それが自己の客観化につながり、苦手意識が緩和される効果があるだろうということです。
そういうわけで、「書くのが苦手」な人、「書くのが苦手な人を指導するのが苦手な人」、共にある程度効果の期待できる本かもしれないと思いました。
#余談ですが来年度はこの「添削」の体制を少し見直したいと考えていますが、その中でも「書く前の教育」を強化したいと考えています(本当は学部教育で何とかして欲しいところですが…)。
#筆者は九州大学の学部1年生相手の講義で上述の実験的な講義を行なっています。本当に知りたいのは、こうした教育を受けた学生が研究室に入ったときにどうだったか、ですね。
(2011/12)自分のアタマで考えよう†
本の副題「知識にだまされない思考の技術」が半分くらい物語っていますが、「知っていることと、思うことと、考えることはどれも違う」ことを具体事例と共にわかりやすく解説しています。このため卒論生にはよい本と思いました。
(2011/10)質問から†
最近読んだ本というわけではありませんが、よく学生に紹介している本を一部紹介します。
今回は「音楽」に関する質問から派生したものです。(梶本は音楽に関して無知なので下記の文章の正確性は確信ありません)
音楽の構成要素の心地よさ、例えば和音がなぜ心地よいのかについて解説した本で下記のものがあります。特に3音を重ねた和音がなぜ有限種しか存在しないのかに関する説明は大変わかり易いです。
「音律と音階の科学 」(ブルーバックス) 小方 厚
また音楽全般についての考察という意味では下記の本をお勧めします。
「音楽の根源にあるもの」小泉文夫
(2011/8)知的生産の技術†
研究ノートをどのようにとり、本をどのように読み、文章をどのように書くか、という、研究上の入出力に関する合理性を追求した本です。いわゆるKJ法とか発想法の本は数多あり玉石混淆ですが、そうしたものの原典のような本です。
カードによる分類やタイプライターの話など、明らかに今となっては古い話題があります。ただこれを書いているのは1969年、ワープロすら無かった時代です。読み取るべきはそういった境界条件のもとでどのような合理化を進めたかという合理性の精神にあります。今出ている数多くの支援ツールはこの精神の延長線上に自然に配置されるように思います。
一方でそうした「読み替え」をしなくても今でも通用することも多々書かれています。例えば次のような個所です(抜粋)。
- 「カードについてよくある誤解は、カードは記憶のための道具だ、というかんがえである。これはじつは、完全に逆なのである。カードに書くのは、そのことをわすれるためである。わすれてもかまわないように、カードに書くのである…いわば「忘却の装置」である。」
- 「(本を)よんでいるうちに、ここはたいせつなところだとか、かきぬいておきたいなどとおもう個所にゆきあうことがすくなくない。そういうときには、これもむかしからいわれていることのひとつだが、その個所に、心おぼえの傍線をひくほうがよい。」
これは今なら電子書籍でも可能ですが未だにすこしやりにくいですよね。紹介のために研究室に本を置いてはいますし図書館に行っても読めますが、自分の本に金銭的投資をすることの意義は未だにあり、それがこの初回の読みでの書き込みのしやすさだと考えています。(電子書籍でもできるけど閾値をこえる容易さには達していない)
- 「一冊の本を読みおえたとする。…知的生産の技術としての読書、つまり読書を何かの役にたてようというつもりなら、…よみっぱなしでは効果がうすい。…いよいよこれからノートをつけるのである。わたしは、よみあげた本を、もういちどはじめから、全部めくってみることにしている。そして、先に鉛筆で印をつけた所に目を通すのである。そこで、なぜ最初によんだときにそこに印をつけたのかを、あらためてかんがえてみる。…これはほんとうにノートしておく値うちがあるとおもわれるところだけを、ノートにとるのである。」
- 「文章の教育は、ほとんど文学作品を通じて行われているようである。国語の授業は、しばしば国文学の授業と混同されている。そして、国語をおしえる教師のおおくの人が、国文学の出身で、文学への指向性が異常につよいのがふつうである。 …今日においては、国語と国文学は、まったくべつの教科とかんがえてみては、どうだろうか。…国語の問題、ひいては文章の問題は、むしろ、情報工学の問題としてかんがえたほうがいいのではないか。」
(2011/8)文明の生態史観†
普段はこういう本は紹介することはないですが.本書の推薦文を書いているのがSF作家として有名な小松左京なのも趣深いです.
書かれたのは1950年代後半年代前半.当時中心的だった西洋史をものさしとした日本論という見方を覆し,自然環境,および各地域の位置関係から大体のことを説明するという試みを行っています.
(2011/8)脳のなかの身体-認知運動療法の挑戦-†
リハビリテーションに関する新しい手法「認知運動療法」を紹介しています.ここであつかうリハビリは,脳卒中等で片側麻痺になった患者に対するリハビリという重い課題です.
こうしたリハビリに関する従来の方法は,まずマッサージやストレッチによって体を柔らかくするという考えに基づくものがありました.しかし,体を柔らかくするという方法は中枢の損傷に対しては実際は無意味です.いわゆる「痙性」はこうした中枢系の麻痺には必ず生じるのですが,それは中枢からの抑制信号が働いていないために生じているわけで,筋肉や関節を物理的にほぐすことで解決する問題ではないわけです.
次に「ファシリテーションテクニック」と言われる,軽く腱を叩くなどによって生じる反射運動によって運動機能を回復するという考えに基づくリハビリ手法がありました.これは患者が主体的に動いているかのように見えるので一見良さそうです.しかし実際には,ここで利用しているのは脊髄レベルの反射であるため,中枢の回復に結びつくものではありませんでした.
こうした手法の限界から,現在のリハビリテーションは現実的な解として,麻痺していない半身を使って日常的な作業をこなす「訓練」が中心となっているそうです.つまり患者は,動かなくなった半身の回復を望んでリハビリテーションを始めるのだけれど,実際には残存する身体機能で何とか生活が出来るように訓練する現状があるということです.
上の手法は,どれも現在行われている主流のリハビリ手法です.これに対して本書では,従来のリハビリテーション手法を忘れて,中枢機能を回復させるための新たな試み,認知運動療法を行うべきだとしています.イタリアのカルロ・ベルフェッティという人が始めたものだそうです.
従来のリハビリが実際に動かすことから始めるのに対し,認知運動療法は,動かない部位が動いていることをイメージすることからはじめます.中枢の「運動計画」と「身体イメージ把握」を司る部分の訓練と再構築に主眼を置きます.
ほとんど脳の再構築なので,赤ん坊が歩けるようになるまでの道のりをたどるような時間のかかる話ですが,これについて本書は「リハビリテーションに奇跡は無い.しかし進歩はある」と何度も強調しています.
運動の関連する触覚インタフェースの研究者であれば必読です.梶本は認知運動療法という言葉すら知らず,別の研究者の方から教えてもらいました.知っておいてよかったと思います.
#ただ正直ちょっと読みにくい面も.啓蒙書なので初歩的な話が多く,実際の重要な部分はあっさりと書いている為です.カルロ・ベルフェッティ自身の本も翻訳されているようですのでそちらも読むとよさそうです(参考文献リストが巻末に付いています).
(2011/3)代替医療のトリック†
「フェルマーの定理」「暗号解読」等で有名なサイモン・シンの最新巻です.代替医療,特に鍼,ホメオパシー,カイロプラクティック,ハーブ療法について,莫大な学術資料を元に論じています.その結論は(それほど驚くことではなく)ほとんどの場合にプラシーボ効果以上の有意差が見られないというもの.
同著者のファンとしては,まずこれまでの作品がどれも科学のワクワク感を伝えるものであったのに対し,擬似科学の問題に焦点を当てた点で,これまでの作品とネガポジの関係にある作品のように感じます.代替医療がイギリスで(一部は皇太子の後押しもあり)盛んになっている状況に対する危機感から書いたのでしょう.正しいサイエンスを伝えるという点でこの人は一貫しているように感じます.
調査が極めて安定/徹底しているので,代替医療について今後語る際にはけして避けられない本でしょう.個人的には代替医療の有効性の調査に関して,「レビュー論文」がたびたび取り上げられているのが興味深かったです.エンジニアリングのレビュー論文はその分野をまとめるものが主で,たまに同じ現象に関する複数の論文の比較がある程度ですが,医療分野における(この本で扱っている)レビュー論文は全て,同じ症状に対する同じ治療法をとった研究論文を大量に集め,それぞれの論文の実験状況を評価し,トータルに統計処理するものでした.当然といえば当然ですが,新鮮でした.
我々の分野との関連ですが,この本で頻出する「二重盲検によるプラシーボ効果の除去」は我々の研究で行う心理実験で常に気をつけるべきこと.僕自身も,自分で実験したら絶対うまく行くと思ったことが,複数人で二重盲検状態でやったら全く効果がなかったということはよくあります.実は非常に近いですし,基本的な研究リテラシー(研究におけるプラシーボの恐ろしさ)を身につけるために読んでおくと良いと思いました.
英語題名(Trick or Treatment)おしゃれ.
(2010/8)The Presentation Secrets of Steve Jobs: How to Be Insanely Great in Front of Any Audience†
ジョブズのプレゼン本が予想外に良かったので紹介します。日本語タイトルは「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則」
http://www.youtube.com/watch?v=k-zMRPZpvcw
説得力のあるプレゼンをするための18の手法が紹介されています。テクニックから心構えまで。普段研究室でよく言う内容としては例えば
- 間と抑揚が大事。その意味では発表と演劇は同じ。
- 聴衆に一つだけ『おみやげ』のメッセージをもって帰ってもらうことに集中する
- 練習につぐ練習が必須。この意味でも演劇と同じ。
というあたりが書かれています。ジョブズも実は「ジョークまで含めて」数週間前から練習を繰り返している!という事実は、知っていると知っていないで人生に差が付きますよね。実際、プレゼン巧者は100%、脅迫症的な心配性と、完璧主義と、サービス精神を合わせ持った人です。
Kindle版を読みましたが、英語力を高めたい人には平易な文章でおすすめ。Jobsのスピーチが頻繁に原文で引用されるので、実際のスピーチとの比較も容易になります。でも一般的な学生には、日本語版を自分で手元において、付箋を張りながら隅々まで読んでおいて欲しい本です。
一方で、アカデミックプレゼンと一般のプレゼンの違いも心得ておく必要があります。ジョブズのプレゼンはどんな人にでも届くように最適化されていますが、アカデミックプレゼンは聴衆のレベルが統一されており、聴衆の期待するフォーマットがあるためです。まずはスタンダードな発表を身につけ、そこから数年のスパンで崩していく、というのが良いと思います。
(2010/6)ネイティヴ並の『英語の書き方』がわかる本†
タイトルそのままの本です。
英語「リーディング」では、大学受験勉強の中で、「トピックセンテンス」「パラグラフリーディング」という概念を聞いた人は多いと思います。
いわく、「長文読解のコツは、一パラグラフごとに主張文(トピックセンテンス)は一つしか無いから、それにアンダーラインを引いていけ」という技です。
(個人的には正直記憶に無いですが、たぶんそういう技術を使って読むというのが潔くないと感じてしまったのだと思います)
実は、というか当然ながら、英語「ライティング」は、このリーディングのテクニックの逆問題を解けば良いことになります。そのことにこれまであまりに無自覚だったかな、と感じます。
つまり、
・「1パラグラフごとに主張文を一つ(ほとんどの場合冒頭に)設ける」
・「章の冒頭および最後のパラグラフでは主張文は最後に持ってくる(ことが多い)」
・「それ以外のパラグラフでは主張文を最初に持ってくる(ことが圧倒的に多い)」
というようなルールを厳密に守っていけば良いことになります。この本はそのための多くの練習問題も含まれていてその点でも素晴らしい。
また「1センテンスは長い方が良い」、というような、一瞬分からないけど読んでみると納得な技術も解説しています。
さらに多くの事実を数字で示してくれているのが良いです。日本人の英作文の何%がこの構造を使っているが、ネイティブの英作文では皆無、とか、ネイティブの1センテンスの平均語長は18-21語、とか。
アメリカの大学で、アメリカ人および日本人留学生相手に英作文の演習を20年やってきた筆者ならではで、研究成果を読むような感覚があります。
以上のようなことは英語論文をたくさん読む修行で身につけていく、というのが、おそらく私が受けた研究上の教育なわけですが、今時そういうのは流行りません。
ルールを推測しながらゲームをするのではなく、ルールブックを読んでからゲームに参加すべきですね。
(2010/5)Google 英文ライティング†
googleを上手く使うとネイティブチェック並みに英文をチェックできるという話です.
例えば動詞の前の前置詞が分からないときにgoogleフレーズ検索でヒット数が多い方を取るという例の手法です.それだけだと買って読む意味はありませんが,本書はもう一歩先まで検索で出来ることを説いています.
学術分野ではよく「翻訳ソフトを使うな」と言いますが,それは翻訳結果が信用できないというだけでなく当人の英語力が付かないためです.これに対してgoogle検索の面白いところは,同じく情報技術を活用しながらも自分の力になるという点です.検索という行為は何か,身につくとは何か,と考えさせます. google検索で英文をブラッシュアップする場合,本書に描かれているように実際には相当の推論力を要求しますので,理想的な能動的学習を行っている事になる,ということでしょう.自動化ツールとして紹介しているわけでは全くない(むしろ時間がかかる)というのがポイントかと思います.
論文書きは(語弊はありますが)プライドの高い人ほどすぐに上達すると感じています.自分の一番良いところを見て欲しい人ほど,陰で努力するためです.本書は陰で努力する人のためのツール紹介です.
ここで培う検索能力は,研究の検索(サーベイ)にも生きると思われます.
(2010/5)サはサイエンスのサ†
SFマガジンの連載をまとめた,科学技術のトピック紹介,というのが本書の第一の意義です.記事ごとに独立して読むことも出来ます.認知科学,脳科学に関係するものが多いので,Mind Hacksを読んだ後に読むと最近の状況が分かって良いでしょう.
ただこの本の価値はそうしたトピック紹介にとどまりません.全体として科学リテラシーの教科書になっている点が素晴らしいです.読者は意識することなく知識以上の,立ち止まって考える姿勢,とでも呼ぶべきものを吸収するはず.その種明かしは後書きにてなされます.
(2010/4)研究室新人用の図書†
4月に入り新四年生が研究室に入ってきました.研究室で標準としているスタートアップ用の書籍を挙げておきます.
人間の心と体のシステムに関する面白い話題を集めたトリビア本です.トピックは錯覚から記憶メカニズム等まで多岐にわたり,単なるネタの集合ではなく,研究上のホットなトピックがどのあたりに分布しているかを自然に理解できるように工夫されています.
2010年の例では,研究室では4月のスタートアップ(授業開始前)に,二日間の集中本読み輪講で読破しました.一人あたり10トピック程度をパワーポイント,映像などを用いて解説する仕組みです.
「日本語では論理的な文章が書けない」という誤解を解く本です.論理学の本ではなく,論理的な本を書くためのトレーニングの本です.「接続詞」を正しく使うことがその鍵である,ということを力説しています.この考えに基づき,研究室では口を酸っぱくして「接続詞に命をかける」と言っています.
2010年は10月の頭に集中本読み輪講を行う予定です.こういう本は輪講にしないと最後まで読み通すのはホネですから.
研究室に入ってくるほとんどの学生の電子回路スキルは,半田付けを中学の技術の時間にやった,オペアンプは記号を見たことがある気がする,という程度です.研究室的徒弟制度は先輩が後輩にマンツーマンで教えることで,そうした学生が「トランジスタ技術」を読むようになる位までサポートします.しかし細々と教える技術が多すぎるので,こうした本は重要です.
研究室では自分で購入して手元に置いておくことを薦めています.この手の本は他にも沢山あるので何でも構いませんが,米国の良い教科書が分厚いように,この本も分厚いなりに解説が丁寧です.
(2010/4)ゲームデザイン脳†
3月末に出た本です.著名なゲームデザイナが,自分の関わったゲームをどのように発想したか,その思考過程をきわめて具体的に書いてくれています.
これはゲーム関係の就職を考えている人は読むべき本...ではなく,インタフェース研究者が絶対読むべき本です.内省,観察からどのように分析し,普遍化し,ゲームに結実させるか,という一連の流れはインタフェース研究そのもの.考え方がきわめて近いことに驚きました.
(2010/3)グラミンフォンという奇跡†
世界最貧国の一つバングラディシュで携帯電話網を広げる話.国民一人あたりの収入が一日2ドル以下の人に必要なのは援助なのか?いや違う!という本です.
(2010/3)創るセンス 工作の思考†
小説家として有名で大学教員でもある森博嗣さんのものつくり教育論のようなものです.
(2010/3)医薬品クライシス 78兆円市場の激震†
医薬品業界といえばハリウッド映画では悪役ですし,巨額の売上があるのも確かですが,その内実は,全世界の医薬品業界全体で年間20種類程度しか薬品が認可されない(つまり一社にとっては新薬を出せるのは10年に一度)なかで,それでも巨額な研究投資を行わなければならないギャンブル的な業界である,という所を克明に描いています.
実は一番衝撃を受けたのは冒頭の次の文章でした.
「筆者はかつて国内の大手製薬メーカーで医薬品開発に携わっていた.13年近く毎日飽きもせず実験を繰り返してきたが,残念ながら自らの手で,ただの一つも新しい製品を世に送り出すことはできなかった.
筆者の力不足といわれればそれまでだが,製薬メーカーの研究者は,入社から数十年間毎日実験を繰り返し,新薬を一つも生み出すこと無く現場を去るものがほとんどなのだ」
(2010/3)映像制作ハンドブック―映像に係わるすべてのクリエイターの必読書†
内容は極めて一般的で,シナリオ(コンテ)作りから光学的な話まで幅広いです.
投稿用ムービーを作成する際には,知識を整理する意味でも一読を勧めます.半日で読めますので.
(2010/2)カラオケ秘史†
これはなかなか素晴らしいプロジェクトX本です.カラオケに関係する発明者はこれまではっきりしていなかったのですが,この本ではカラオケ装置の発明者,カラオケボックスの発明者,通信カラオケの発明者,を丹念に取材しています.それぞれに社会的,技術的背景があり,製品のヒットと時代背景,技術史的背景が密接に絡むことがよく分かります.
通信カラオケの発明者がブラザーの研究者で...というあたりは胸が熱くなります.まさに「こんな事もあろうかと」な人です.
(2010/2)コミュニケーションをデザインするための本†
これは相当に恐るべき本です.広告業界に悪い先入観のあった僕がちょっと電通で仕事したいと思ってしまったくらいです.
広告とはコミュニケーションデザインである,ということを,著者自身が関わった多くの実例とともに示しています.
広告というとTVCMから始まり,現在のweb広告等に至るまで,「技術,手法」が注目されがちです.しかし実際には観客の気持ちと行動を予測し,観客とコミュニケーションを取るコミュニケーション技術なわけです.そう言ってしまうと当たり前のようですが,それを実際のケースで愚直に進めるのは普通なかなか出来ません.それが出来ている実例紹介なので,非常に迫力があります.
我々の立場と極めて近いものを感じましたし,実際筆者は最終的に,観客を揺さぶるという点からすれば,広告自体が価値のあるコンテンツでなければならないという所に行き着いています.つまりある意味で広告を否定しています(望んでいるのはコミュニケーションデザインであって広告は手段に過ぎない).深く考えると時々こういう事がおきますよね.
コミュニケーションやコンテンツといった言葉を真面目に考えさせる本ですし,本のメッセージを正確に受け止める素地は,技術系に深く関わっている我々こそが持っているとも言えるでしょう.おすすめ.
(2009/11)脳の中の幽霊†
これはだいぶ昔に出た超有名な本です.梶本も昔読んだはずなのですが,「妻を帽子と間違えた男」等で有名なオリバー・サックスのような面白脳欠陥症例集という程度の認識で流してしまっていました(もちろんそれも面白いのですが.特に「火星の人類学者」はお勧め)
というわけで再度読んでみるとこれはびっくり.触覚とVRに関する教科書,とまでは言わないまでも副読本とすべきような内容が満載です.
例えば幻肢(Phantom Sensation,Phantom Limb)による痛みを治す新しい手法を開発したくだりは触覚研究者必読です.
幻肢痛というのは,切り取ったはずの手先に痛みを感じるという物ですが,従来は切断面に露出した神経が過敏になったために生じていると言われていました(梶本もそう教わりました).これに対してラマチャンドランは,段ボールと鏡だけで出来た驚くほど簡単な装置(彼が「VR装置」と呼ぶ物)で幻肢痛を取り除けてしまうことを示します.
この話は触覚の脳内マップの話,さらに痛覚,情動の話に発展していきます.話の広がり方,それでいて一本のストーリーになっている感じはめまいがするほどです.
他に直接触覚と関係する物としては,Rubber Hand Illusionも紹介されています.というか,Rubber Hand Illusion自体が彼の研究です.
僕は昔,この現象がテレイグ的には当たり前すぎて,なぜ「発見」というのか(しかもその後,ビデオカメラを使って自分の姿を後ろから見る「幽体離脱体験」すら新発見とされてしまった)納得が出来なかったのですが,ラマチャンドランの文脈の中ではじめて納得しました.
彼は本書の中で,重要な研究に脳計測装置的な高額な装置は必ずしも必要ない,ということを何度も説いています.実際彼の研究道具は段ボールだったり鏡だったり綿棒だったりして,そういうところが非常に格好良いです.同時に彼は相当な教養人(インド人なのにシェークスピアを暗唱)ですし,また徹底した文献サーベイをしていることも分かります.1930年代の論文などを読みこなしている箇所が何度も出てきます.そういうところも学びたいもの.
つまり総じて,研究スタイルを真似たくなる本だと思います.
(2009.11)つながる脳†
この本,読んで新しい知見が得られるかというとそれほどでもありません.しかしそのことはこの本の価値を下げていません.
一言で言えば「一冊かけて語った研究計画書」です.実際の研究所内で提出した研究計画書すら掲載しています.
内容は極めて誠実で,脳科学の現在の閉塞感を強く訴えています.この分野は10年ほど前に華々しく「脳の世紀」ということで非常に大きな予算が割かれていたのですが,現在はそれで何が達成されたのか,という点が問われる局面になりつつあります(ある意味存亡をかけた一手がBMIだとも言えます).そのことをあくまで誠実に述べています.
リベットの「意識(awareness)を生じる500ms前に運動計画野は始まっている」話や,最近流行のミラーニューロンをばっさり.こういう脳科学の本職からの醒めた意見は重要だと思います.
(2009/10)考える脳・考えるコンピュータ†
著者はジェフ・ホーキンズと言ってPalm社の創業者.共著としてブレイクスリーが加わっています.
著者はPalmのグラフィティ入力を考案した人で,本来エンジニアです.成功して大金持ちになりました.実は昔から脳の研究をしたくて,お金持ちになった後に,昔MITに入れなかったルサンチマンを昇華させて自分で研究所を作ったという面白い人です.
ということで肝心の内容はエンジニアであれば誰もがうなずく内容という意味では慶應の前野先生の本に似ていると思いました.(サイエンティストにどのくらい受け入れられるか,というのはまた別)
主題は「脳の統一的な原理とは何か」という事です.現在の脳研究の大半は,個別の部位がどのような役割を果たしているか,という事に集中しています.しかし実はかのMountcastleはむしろ,「大脳新皮質の全ての部位は,驚くほど*均一な*構造を取っている」ことに注意喚起しています.むしろ考えるべきは脳の各部位における違いではなく,均一な構造によってなし得るアルゴリズムであろう,というのが筆者の立場です.なぜなら,脳の可塑性から考えて,各部位の違いは感覚入力の違いに還元されると思われるからです.
筆者の主張は,「大脳新皮質の構造は,記憶と予測のためにある」ということに集約されます.そのための具体的なアルゴリズムを,大脳新皮質に見られる6層構造,脳自体の階層構造,視床などを含めたモデルで提案しています.
具体的なモデルの提案部分(6章)は不明なところも多いので話半分に聞けば良い物ですが,フィロソフィとして次のような主張は正しいと感じます.
・「静的なパターンを認識する」という事に脳の機能の本質があると考えてはいけない.ほとんどの場合動的な「シーケンス」の方が重要であり,脳の統一的なアルゴリズムは動的なシーケンスに対応できる物でなければならない.
・個別の感覚が個別に処理され,その後連合野で集約される,という従来のモデルだと,二つの異なる段階があるように見えるが,実際には連合野も含めて同じ階層構造と見なすことが出来る.
・脳の神経は,上昇していく本数よりも下降していく本数の方が遙かに多いことが知られている.それにもかかわらず従来の感覚研究は上昇経路に集中してきた.下降経路は従来ある種の調整機能をもつと考えられてきたが,それだと裂いているハードウエアパワーに対して機能が余りに少ない.下降経路が「予測」という脳の本質を表すとすればこの問題は解決する.
・「運動野」すら特別な領域と考えるべきではない.脳のあらゆる部位で,感覚入力の上昇経路と予測という下降経路がある.運動野はこの下降経路の一部であるに過ぎない.つまり他の部位では脳内で予測の機能として働く経路が,運動野ではたまたま外界に働きかけると言うこと.この意味では「頭の中で予想すること」と「実際に行動すること」には,脳的には大した違いはない.
最後に近いところで個人的に印象に残ったのは,いわゆるクオリアについて言及した部分です.
「新皮質があらゆる場所で均質で,すべて同じ処理をしているだけなら,脳に入るのが光でも音でもなくパターンだというのなら,なぜ視覚と聴覚はあれほど異なって感じられるのか」
この疑問に対して二つの回答を用意するのですが,そのうちの一つとして,「入力の構造,すなわち,パターンそのものの違いによって,情報の質的な印象が決まる可能性」を述べています.これは個人的に今少し考えている事に近いです.
例えば触覚が運動を知覚するモジュールを持つという事を,「脳にそういう部位がある」として説明するのではなく,末梢(感覚器)の性質から,そうならざるを得ない物として演繹できないものかと思っています.
余談ですが,最近の脳関係の良書は,ほぼ例外なく触覚を意識しているのが特徴かなと思います.その意味で,昔は脳本の多くは有害図書なのではないかとすら思っていましたが,最近の物は結構読む価値があります.僕のバイアスかもしれませんが,ようやくこちらに近づいてきた,という感じがありますね.
先に紹介した「脳の中の身体地図」では導入で,「入力と出力を兼ね備えた触覚+運動によって脳の重要な機能はだいたい分かるはずで,視覚や聴覚などはオマケに過ぎない」,とまで言っていますが,それに近い気分は確実に共有されつつあるのではないかと思います.
(2009/10)脳の中の身体地図~ボディマップのおかげでたいていのことがうまくいくわけ†
今年の4月に出た本です.触覚のボディマップ(身体座標)に関する面白トピックを紹介しています.以前「ミラーニューロン」の本で紹介した様なバイモーダルニューロン(身体に触れていないのに,身体の知覚にあることを視覚的に知ると活動するような体性感覚ニューロン)の話や,痛みに関する話が数多く納められています.書いたのはブレイクスリー母子というサイエンスライターで,有名な「脳の中の幽霊(ラマチャンドラ)」の共著者でもあります.
最新の知見をよく集めていて,手軽にホットトピックを知る良書だと思います(一方で寄せ集め感もやや否めません).
以下個別の面白かったポイント
・3章:拒食症患者のかなりの数が,ボディマップに異常がある.「例えば×や○の形の凹凸を指で知覚させ,それを絵に描かせる」という簡単なタスクが実行できない(知能は正常).さらに「コンパスで自分自身の腕の太さを測らせる」タスクを与えると,コンパスを異常に大きく広げる.この触覚的座標知覚の能力の低さが自分の身体のセルフイメージを誤らせ,「太っている」と思い込ませるらしい.
・この症状を改善させるためにキャットスーツ(全身を締め付けるダイビングスーツ的な物)を着させ,触覚を常に知覚させると,着ている期間のみ拒食症が改善される.
・5章:首が曲がったままになるジストニアの改善手法は患者ごとに方法を編み出す事が多いが,そのうちの一つの方法は,右手を後ろに回して左頬を触るというもの.触った瞬間に首が元に戻る.おそらくは身体運動のボディマップが混乱しており,活動すべきでない筋が活動してしまっている状態が,触覚入力で正常に戻るらしい.
・7章:一次運動野の損傷によって部分的な運動麻痺を起こした人は,その部位に麻痺感を生じる.感覚野は全く損なわれていないにもかかわらず.つまり感覚野と運動野は機能的には一体である.
・不明瞭なリズムを流している最中に,他人と手をつなぎ,飛び跳ねると,それにあわせた音楽が聞こえる.つまり多感覚ニューロンのおかげで身体で感じることがそのまま耳に聞こえる物を形成する.
・受動触より能動触を少なく感じる件.「相手に殴られた方を強く感じる」という有名なScience論文 http://www.icn.ucl.ac.uk/pbays/pdf/SheBayFri03.pdf
・8章:VRという言葉を作ったとされるJaron Lanier は身体マップの可塑性に夢中.80年代にHMDをかぶり,自分の体がロブスターになったかのように腹から沢山の手が生えている状態を作り,その手群を自分の本当の手腕の微妙な角度でコントロールできるようにした.
・Lanierの別の実験ではファントムセンセーションを用い,空間に触覚が生じさせた.特に視覚体験と合わさると明瞭に感じられた.
・9章:ミラーニューロンの使い方:相手の仕草をほんの数瞬遅らせてまねるだけで,模倣された方は模倣者に対して好感を抱く.うなずき君より良い?
・10章:自分の心拍を自分で把握する能力が高い人間ほど,他人の感情と情動を読み取ることが出来る.これはビープ音を聞きながら,そのビープ音が自分の心拍にあっているかどうかを判断させるという実験で明らかになった.一般に内臓など自己の内部状態を把握する能力と感情を理解する能力は関係するらしい.
・最近流行のニューロフィードバック療法.痛みの量を表す脳の活動レベルをコンピュータ画面の炎の大きさとしてリアルタイムで表示し,この炎の大きさを出来るだけ小さくするように患者に指示する.小さくする方法は患者が自分で見つけ出さなければならない(例えば痛みを取りのけてくれるこびとを想像するなど).この訓練によってたいていの人が痛みを大幅に和らげることが出来る.(このニューロフィードバックはアルファー波を出すコツを掴むためにも使える)
・熱い+冷たい=痛いになる有名な錯覚の原因.痛覚神経は常に活動し続けており,同様に冷覚神経も常に活動している.普段はこの冷覚神経の活動が痛覚信号の伝達を阻害している.熱い+冷たいを同時に与えたとき,温覚受容器の活動が側にある冷覚受容器の活動を阻害してしまい,結果として痛覚が現れる.(これは定説か?)
(2009/9)鳥人計画†
東野圭吾の推理小説.スキージャンプ競技を舞台に事件が起きます.
インタフェース業界の人間としては是非読んでおくべき本.詳しくは言えませんが,素晴らしい教示手法が提案されています.
(2009/8)どう書くか-理科系のための論文作法†
研究室では英語論文,論文の書き方に関する本をかなりそろえていますが,この本は英語,日本語にかかわらず論文を書くための導入として優れています.
この手のオーソドックスな古典として「理科系の作文技法」などがありますが,この「どう書くか」の優れているのは,筆者自身の多数投稿+査読してきたノウハウが詰まっていることです.特に査読者の心理などは普通学生は知るよしもないですから貴重です.「理科系の作文」がどちらかというと卒論修論向けなのに対して,「どう書くか」は投稿論文向けでしょう.
例えば「論文賞を受賞するための論文タイトルの付け方」を分析したりしています.根底には,論文とは読者を楽しませるエンタテインメントでなければならない,という精神があり,非常に共感を覚えるところです.査読者が一番つらいのは「特に間違っていないけれど果てしなくつまらない」論文を読まされることですから.
論文投稿を考えている人は是非読んで下さい.